はじめに
今回のコラムは当社の顧問行政書士であるフェロー行政書士事務所の行政書士、大塚香織先生に執筆をお願いしています。日々外国人と一緒に働いている人事や現場の皆さんにとって前から気になっていたことや、実際どうなのだろうという点について触れていくこととします。今回は話題の「続編:特定技能2号」について詳述していきます。
特定技能制度をとりまく環境
特定技能制度は、平成30年12月8日第197回国会(臨時会)において『出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律』が成立し、同月14日に交付、翌令和元年4月1日に施行され、3年が経とうとしています。
施行当初は、準備期間の不足から試験制度、相手国との2国間の協力覚書の締結などに時間を要したため申請数も増加せず、開始3カ月の許可人数がわずか11名、全て元技能実習生が特定技能へ移行したものです。
同年12月に至っても、『特定技能評価試験』合格者の許可件数は、宿泊分野と外食分野合計で115名、その他の産業分野については、全て技能実習生からの移行組でした。
令和2年に入ると、ようやく一部の産業分野では『特定技能評価試験』が安定的に実施されるようになったのも束の間、COVID-19の感染拡大の影響を受けることとなり、再び海外からの受入が難しくなりました。
令和2年4月には緊急事態宣言が発令されるなどの混乱のなか、『特定技能評価試験』の受験資格が拡大され、帰国困難者の受け皿として、特定技能の在留資格へ変更しやすくする運用が段階的に行われてきました。
令和3年9月末の統計によれば、38,337名の特定技能1号外国人が在留しているものの、実質的には技能実習生・留学生を中心とした既に本邦に在留する人々が特定技能の在留資格へ変更したもので、新規入国者は1割にも満たない状況です。
令和4年1月現在、感染症の状況は再び拡大をみせており、外食・宿泊を中心とした一部の産業分野は、引き続き多大な影響を受けることとなり、今後も予断を許さない状況が継続すると言えるでしょう。
受入の現場の混乱
特定技能制度の導入以前は、技能実習生、留学生等のアルバイト、永住者等の身分系在留資格者が、同様の職種で就労してきました。(ただし、ビルクリーニング、宿泊、飲食料品製造、外食分野を除けばアルバイトを雇用するケースは多くありません。)
留学生30万人計画の中で、日本に訪れた多くの留学生にとって、留学後の日本での就職は困難な問題でした。
特に、留学後の就労先として、特定技能に該当するような職種を選んだ場合、従来は在留資格を取得することができませんでしたが、現在は『特定技能評価試験』に合格することで、特定技能の在留資格で活躍の場を得られようになり、その点はプラスの側面と言えるかもしれません。
しかし、試験ルートで特定技能1号の在留資格を得るためには、分野によって異なるものの数日~数週間の学習を経て『特定技能評価試験』を受け、合格することが求められているのに対して、技能実習生が、特定技能1号へ移行するためには、3年間の技能実習を終え『技能検定(随時3級)』に合格する必要があります。
前者(試験ルート)、後者(技能実習ルート)の人材が混在する現場では、混乱が生じるケースも少なくありません。
それは、3年の実務経験を有する技能実習生と、未経験者である試験ルートの人材を制度上、同列に扱うことになるからです。
さらに、介護分野の場合は、EPA、介護福祉士養成施設修了者なども混在することとなりますが、選択肢の幅が増えた分、ひずみが生まれやすいことには細心の注意が必要です。
参考:『外国人介護職員を雇用できる4つの制度』
※代表的な4つが記載されていますが、この他の在留資格でも採用できるケースがあります。
今後、感染症の状況が落ち着くと『特定技能評価試験』に合格した新規入国者が、さらに増えることになりますが、元留学生や技能実習2号修了者(3年実務経験者)と比較すると、来日経験のない新規入国者は、日本語レベルや生活習慣などの問題が出てくることが予想されます。
しかしながら、制度上はこの新規入国者も、元留学生等も、技能実習2号修了者(3年実務経験者)も同列に考えることになるため、担当職務の範囲を変える、勤続年数や経験年数を正式な評価基準にするなど、正当に評価するための方策を検討する必要がありそうです。
手続に関する問題
特定技能の制度面では、この3年間で少しずつブラッシュアップされ、手続きの簡素化、体制の強化が行われてきました。
在留資格取得及び更新(※1)に関する手続については、当初予定されていた書類よりも簡素化されたものの、人手不足の企業には負担が大きい内容であることは否めません。
四半期ごとの定期届出及び、随時の届出についても、届出すべき内容が多岐に渡ること、期限の設定が短期間であること、一部項目については提出の目的が不明瞭であるなどの問題があり、適時適切に手続きを行うこと自体が容易ではありません。
令和3年12月には、漸く出入国在留管理庁の公式ウェブサイトに届出マニュアルが掲載されました。令和元年4月の施行から実に2年7カ月余りを経ての公開はあまりにも遅いとはいえ、内容も分かり易く、記載内容についても公式な見解が示されたもので、歓迎すべきものと言えますが、他方で随時の届出や、備えるべき帳簿類に関するマニュアルは未だ公開されていません。
さらに利用者に優しい情報提供がなされることを期待したいところです。
現在募集中のパブリックコメントによると、令和4年4月にも電子申請・届出制度が拡充される見込みです。今まで、一部違法に行われてきた違法な書類作成代行は、届出内容を正確にヒアリングせずに無資格者が書類を作成して提出しているなどの問題もありました。
電子申請の導入によって、解消される可能性がありますが、全ての企業が電子申請に対応できる状況になるには、まだまだ時間が掛かるでしょう。
※1在留資格変更許可申請、在留資格認定証明書交付申請、在留期間更新許可申請
特定技能制度の在り方
令和4年1月14日法務大臣閣議後記者会見において、古川法務大臣は以下のとおり述べました。
「特定技能制度・技能実習制度に係る法務大臣勉強会の設置について
特定技能制度及び技能実習制度の在り方については,入管法や技能実習法の附則において,検討が求められているところ,まさに検討時期に差し掛かっています。
これらの制度については,様々な立場から,賛否を含め,様々な御意見・御指摘があるものと承知しています。
私としては,両制度の在り方について,先入観にとらわれることなく,御意見・御指摘を様々な関係者から幅広く伺っていきたいと考えており,そのため,「特定技能制度・技能実習制度に係る法務大臣勉強会」を設置することとしました。
また,同時に,両制度の実施状況についての情報収集・分析を進めるよう,出入国在留管理庁に対して指示しており,順次報告を受ける予定としています。
今後,改めるべきは改めるという誠実さを旨として,両制度の在り方について,多角的観点から検討を進めていきたいと考えています。」
『外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律』(以下、『技能実習法』という)は、日本の法律の中でも特に厳しい規制が掛けられている法律と言われています。
特定技能制度も、技能実習法のしくみを受け継いでいる部分が多く、手続きのみでみると特定技能の方が細かいと言われることも多いです。
しかしながら、一部の受入機関等で行われた違法行為や、人権侵害行為が報道されることも少なくありません。
これは、制度の問題よりもむしろ運用上の問題が大きいと言わざるを得ません。
マクロの視点から見直しをはかり、利用しやすく厳格に運用されるしくみづくりが望まれます。