技能実習が抱えていた問題と廃止の背景
技能実習制度は、在留資格の1つです。
技能実習生の対象となる外国人が日本の企業と雇用契約を結んだうえで、出身国では習得が難しいスキルや知識を得るための制度といえます。
しかし、これまでの技能実習制度には次のような問題が生じていました。
- コミュニケーション不足によるハラスメント
- 低賃金・長時間労働による失踪、不法就労
- 犯罪への加担
これまでの技能実習制度は、企業側の対応も問題があるものの、技能実習生が関与している闇バイトや失踪に関しては社会問題となっていました。
結果として、全16回にわたる「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が行われ、技能実習制度は廃止となりました。
そして、新しい制度である「育成就労制度」に変更されることが2024年3月15日には閣議決定されたという流れです。
2025年3月11日の外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議について
特定技能制度及び育成就労制度の方針に関しては、現在進行形で変化しています。
育成就労は、「人材を確保することが困難な状況である特定分野で、即戦力となる外国人を受け入れていく仕組み」のことです。
そのうえで、育成就労に関連する以下の3分野では次のように方針が変化しました。
ここでは、「特定技能制度に係る既存の分野別運用方針の改正について(令和7年3月11日閣議決定)」の内容についてみていきましょう。
1.介護
これまで認められていなかった特定技能 外国人の訪問系サービスへの従事が可能となります。
介護職員初任者研修課程を修了した上で、介護事業所での実務経験が1年以上必要です。
また、研修を行うだけでなく、以下のような体制の整備も行わなければなりません。
- 一定期間、責任者が同行した上で必要な訓練を行う
- キャリアアップ計画の作成やハラスメント防止のための窓口設置
- 情報通信技術の活用を含めた環境整備を行う
つまり、研修や教育の体制を これまで以上に 整えたうえで、 訪問介護では対処できない 事態に陥った場合に、医療対応や遠隔での指示が受けられる体制を作る必要があります。
そのため、緊急用のマニュアル整備と実際の応対を訓練できるような環境整備が必須になるといえるでしょう。
2.工業分野製品製造業
工業分野製品製造業に関しては、特定技能外国人の受け入れを推進する民間団体を設置し、受け入れ機関は設置された民間団体に加入しなければならなくなります。
これは、 2028年までに、1号特定技能外国人の受け入れ見込み数を5万人から17万人に上昇させるという政府の意図を反映したものです。
民間団体に関しては、 雇用条件や労働環境の整備といったルールを企業側に守ってもらうために設立します。
ルールを課すだけでなく、外国人を受け入れている企業内の確認も新たに行われる予定です。
加えて、経済産業省の調査や報告徴収に協力しなければならないルールも課される点が大きな変更点だといえるでしょう。
また、工業分野製品製造業でも外国人労働者を人材不足のために採用する流れは、大きく変化しません。しかし、日本人の雇用や生産性向上、賃上げといった待遇に関してもルールが新たに課される可能性があります。
3.外食産業
現状の外食産業は以下のような状況になっています。
- インバウンド需要が急速に回復した
- 深刻な人手不足が進んでいる
- 宴会やレストラン営業の停止によって運営の見直しが必要となる(人手不足も原因)
そのため、旅館業法の許可を受けた旅館・ホテルに関しては、風営法の許可を受けている場合でも特定技能外国人が就労できるように改善されました。
とくに、外食産業においては、接客だけでなく飲食物調理や店舗管理まで外国人が担えるようになります。
育成就労(仮称)で何が変わる?
技能実習制度と育成就労の大きな違いをまとめると次のようになります。
目的に関しても技能実習制度は国際貢献でしたが、育成就労は日本国内の人材不足を補う目的での人材育成といった違いがあります。
技能実習制度 | 育成就労制度 | |
在留資格の呼称 | 技能実習1号、2号、3号 | 育成就労 |
在留期間の長さ | 5年 | 3年 |
転籍 | 不可 | 可能 |
日本語能力 | 介護以外はなし | 日本語能力検定N5 |
管理団体の名称・責任 | 管理団体 | 支援管理団体 |
技能実習制度は、在留期間が次のように定められており、通算で5年ほど日本で就労可能でした。
1号からスタートし、3号までスキルや本人の希望に合わせて段階的に上がっていくという内容になっています。
- 1号が1年
- 2号が2年
- 3号が2年
しかし、「育成就労」では、3年の在留期間が基本となります。
また、年数によって呼び名が変わることがない点も知っておきましょう。
将来的に「特定技能1号」のレベルまで育成することを目的としており、その後は「特定技能2号」を目指すことになります。高レベルの熟練技能が求められる「特定技能2号」の試験に合格した場合は、家族帯同と就労制限なしの条件が可能です。
「特定技能2号」の在留資格を保有している場合、あらゆる産業のリーダーとして特定技能外国人が活躍できます。
永住許可につながる下地を作れる
育成就労は、最終的に特定技能1号や2号に合格するための人材育成制度だといえます。
仮に、「特定技能2号」に移行した場合、永住許可を取得できます。
素行やスキル、利益といった要素から判断されるものの、育成就労から特定技能2号まで移行してきた外国人材であれば、十分に要件を満たす可能性が高いといえるでしょう。
また、永住権があるかどうかによって、企業としても長期的な視点から、計画・シミュレーションしやすくなります。
特定技能2号の試験は、簡単に合格できるものではないものの、期限のない人材確保につながる点はメリットです。
加えて、育成就労は日本国内の人材不足を補うための人材育成が目的であるため、受け入れる企業としてもこれまで以上に外国人材が活躍しやすい労働環境が整うことにも期待できるでしょう。
転籍が可能
技能実習制度では認められなかった転籍は、「育成就労」では可能となっています。転籍が可能な例は次のようになります。
- やむを得ない事情
- 労働条件に ついて契約時の内容と実態の間で一定の相違がある
- 職場における暴力 やハラスメント事案等がある
- 本人の意向
- 同一の受入れ機関において就労した期間が1年を超えていること
- 技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験(日本語 能力試験N5等)に合格していること
- 転籍先となる受入れ機関が、例えば在籍している外国人のうち転籍してきた者の占める割合が一定以下であること、転籍に至るまでのあ っせん・仲介状況等を確認できるようにしていることなど、転籍先とし て適切であると認められる一定の要件を満たすものであること
とくにやむを得ない事情については、企業側の問題も加味されるため、これまで以上に厳格な人材管理とコミュニケーションが必要です。
企業は「実習生」ではなく「労働者」として扱う必要がある
育成就労制度では、特定技能外国人は「労働者」として扱われます。
そのため、以下のような一般的な労働法を適用しなければなりません。
- 就業規則の適用
- 適正な労働契約の締結
- 給与支払いの透明化
- 労働時間・残業管理の徹底
技能実習制度では、「研修」「教育」の名目で低賃金や過重労働が黙認されるケースもありました。
しかし、新制度では正式な労働者としての待遇を提供しなければなりません。
また、待遇以外でも以下のような違いがあり、企業はこれまで以上に責任を問われることになる点も知っておきましょう。
技能実習制度(旧制度) | 育成就労制度(新制度) | |
労働者の扱い | 実習生(非労働者) | 労働者(正式な雇用) |
転職の可否 | 原則禁止 | 条件付きで転職可能 |
給与・待遇 | 最低賃金以下のケースも | 最低賃金以上の支払い義務 |
労働環境の責任 | 監理団体が関与 | 企業が直接責任を負う |
住居・生活支援 | 監理団体が主導 | 企業が直接支援 |
行政報告義務 | 曖昧な点が多い | 定期的な報告が必須 |
監査の厳格化 | 不透明な部分が多かった | 監査・罰則が強化 |
まとめ
今回は、技能実習制度に代わる新制度「育成就労制度」について解説しました。
1993年から開始され、国際社会でも非難を受けていた技能実習制度は廃止され、2030年までには完全に移行することになります。
これまでの技能実習制度と比較し、より日本国内の企業に焦点を当てた内容となっているといえるでしょう。
詳しい受け入れ分野やメリットについて知りたい方はこちらの記事も参照してみてください。
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