技能実習制度廃止の概要
今回の有識者会議での中間報告のたたき台の内容は、「技能実習制度と特定技能制度の在り方」についてとなります。
たたき台の内容は、技能実習制度の目的と運用実態の 乖離についてを挙げています。
技能実習生を外国人労働者としての扱いではなく、人材育成を前提とした国際貢献による外国人として受け入れている現状について望ましくないことを提示し、未熟な技能実習制度を廃止し、これに代わる新しい制度の創設を求めています。
新しい制度の案としては、「特定技能制度」と連動して対象職種や対象分野を一致させる方向で検討し、現在の技能実習生から特定技能へ移行しやすくなる方向性で検討されています。
技能実習制度が廃止についての意見
今回の有識者会議での主な意見についてポイントをまとめておきます。
- 農業、水産加工、建設業、縫製業など、深刻な人手不足を解消するための受け入れ方策を考えること。
- 作業範囲や労働時間数の制限の緩和、安定的に外国人材が活躍できる環境整備をお行うこと。
- 外国人労働者の受け入れによって社会が分断されないように、日本人労働者と同等の支援が受けいれられ、長期滞在も可能になること。
- 外国人材の定住化、子育てや介護、年金など、日本での暮らし方について検討する。
- 技能実習制度のみではなく特定技能制度についても見直しが必要となる。
- 生活者としての外国人労働者の支援の在り方について検討する。
- 外国人労働者の賃金について検討する。
- 失踪した技能実習生に対して不法滞在の外国人としての扱い方について検討する。
技能実習制度の実態と乖離について
技能実習制度の目的と実態のかい離が様々な問題の背景になっているため、この矛盾に対する意見についてポイントをまとめておきます。
- 国際貢献を目的としているが、実際帰国した元技能実習生がすべてが、実習した同一の仕事に付いているわけでなく、国際貢献だけを技能実習制度の目的に位置付けるには無理がある。
- 特定技能制度と整合性がとれた、キャリアパスを見通すことのできる新しい制度を検討する。
- 日本で生活者として暮らせる仕組みを考えるべきである。
- 国際労働市場においては、送出機関や監理団体などが担っている機能は、今後も必須である。
- 技能実習生が本国にはその技術を生かせる仕事がなく、帰国後もその仕事に就けないという事情があるケースもある。
- 不適切な送出機関や仲介ブローカーを取り締まる方策や失踪対策などを総合的に議論 すべきである。
- 人材育成を目的とする技能実習制度に労働者性を認めたときに、スキルの向上をどこまで求めるのか整理する必要がある。
- 技能実習制度について、諸外国から問題を指摘されているということは、技能実習生が雇用主に従わざるを得ず、人権侵害等に追い込まれていくという構造的な問題がある。
外国人労働者のキャリアについて
日本で働く外国人労働者に対するキャリアパスの考え方についての意見をまとめておきます。
- 外国人材がキャリア形成の道筋を明確に描くことができるキャリアパス制度の構築は必要である。
- 技能実習制度と特定技能制度の職種や分野に整合性がないため、2つの制度の連結性を検討する。
- 日本語や技能のレベルアップや共生のための環境整備が必要であるとともに、費用負担についても国が考えるべきである。
- 特定技能2号の分野が極めて少ないことについて見直しが必要である。
- 外国人を人手不足を埋める一時的な労働者としてみるのではなく、日本の社会の中で活躍してもらうという観点が重要である。
外国人のスキル評価について
外国人が日本で働く環境において、スキルについてどう評価されるべきか?についてまとめておきます。
- 技能実習3号は高度な専門的能力を有する者に、何かしらのインセンティブを与えることも必要である。
- 技能実習制度と特定技能制度を連結してキャリアパスを構築する中で、賃金も上昇していく仕組み作りを検討する。
- 試験ルートの特定技能1号が、技能実習生以下の技能ではないか?という現場の声があり、特定技能外国人に対する雇用のあり方について見直しが必要である。
- 特定技能制度は技能実習制度ほどには計画性は必要ではないかもしれないが、支援機関の役割は重要である。
- 技能実習制度の作業区分が細かいことにより、キャリアが広がらないという 問題意識がある。
技能実習制度の在り方について
技能実習制度については、現在転職は認められていませんが、今後の方向性としては、転職ができる制度として検討されています。
ただし、転職するにも一定期間の制約は必要であるという意見も出ています。
監理団体の在り方については、基本的な枠組みというのは引き継ぐ形で検討されていますが、不適切な機関に対しては厳格に排除する方向性となっています。
また、技能実習生と企業、監理団体のお金のつながりを切り離し、国に一旦支払うような仕組みがあるといいのでは?という意見も出ています。
監理団体は営利性を持たない機関であるため、営利性を持つ団体を排除するよりも適切なインセンティブ構造の下、制度を設計してはどうかという意見もあります。
技能実習制度の管轄機関である「外国人技能実習機構」は存続の方向性で考えられています。
受けいれる対象業種については特定技能制度との整合性ができるように、日本語能力についてはN5程度の資格取得を義務づけることが検討されています。
技能実習制度は、監理団体が行う入国後の日本語教育について、講習方法や内容、科目ごとの時間数が監理団体によってかなり違いがあるため、一定の基準を設けて講習の質の担保をすることが必要であるという意見も出ています。
特定技能制度については、課題としては、登録支援機関の質担保、送出機関の手数料徴収の規制策、家族帯同などが検討されています。
まとめ
技能実習制度は、国際貢献を目的としてスタートした制度ですが、始まってから30年経過し、さまざまな問題をかかえ、制度の見直しが検討されることとなりました。
少子高齢化による人口減少とともに人手不足が深刻化する中、技能実習制度の目的を「国際貢献」から「労働力確保」へのシフトによって、日本で働く外国人人材を長期的に受け入れる環境づくりのために話し合いが行われています。
今回の中間報告書では、技能実習制度の問題を提示し、解決策となる大まかな方向性が示されており、今後、将来につながるような新しい制度になっていくことが期待されています。