【ケーススタディ:宗教的な習慣の違い】
宗教的な習慣の違いは、それぞれの宗教ごとに存在します。
その中でも、特に、イスラム教の方は、日本人の当たり前の生活習慣とは異なるポイントがいくつかあります。
他の宗教と比較しても、必ず守らなければならないルールがいくつか存在していますので、注意が必要です。
・事例①:食生活について
有名なところでは、食習慣の違いがあげられます。
イスラム教では、アルコール・豚肉等の摂取が禁じられています。
①アルコール
イスラム教では、アルコールの摂取は全面的に禁じられています。
消毒などに使用するアルコールも禁止です。
厳密にいえば、発酵過程でアルコールが自然発生する醤油やみりんもNGです。
アルコールは、判断力を低下させ、正しい行動ができなくなる可能性があるとして忌避されています。
②豚肉
イスラム教では、豚が不浄の動物とされており食すことが禁じられています。
国によっては、豚の飼育環境が必ずしも衛生的とはいえず、非イスラム教徒の方の中にも、嫌悪感を抱く人がいます。
豚由来の成分が含まれた食品全般がNGであるため、食料の調達の際には、成分教示を確かめながら購入されます。
③正しく処理をされていない肉・魚
豚以外の食肉・魚であっても、イスラム法で定められている処理をしていないものは、食すことが禁じられています。
具体的には、頸動脈を一気に切るなど生きている状態から苦しまずに処理しているものがイスラム法にのっとった肉となります。
また、食肉・魚の生食も基本的に望ましくないとされています。
上記がイスラム教における代表的な留意事項となります。
年配の方ほど厳密に遵守されますが、若い方、特に日本で働くイスラム教の方の中は、「郷に入っては郷に従え」という感覚を持ち、日本の習慣にある程度寄せながら生活をしている方もいます。
・食生活についてのよくあるトラブルと解決方法
禁止されている食材を知らずに食べてしまい、後からそれを知ることでトラブルになるケースがあります。
柔軟な方であれば、「知らずに食べてしまったものは仕方がない」と考える方もいますが、敬虔なイスラム教徒の方にとっては知らずにアルコール・豚肉等を摂取してしまうことはトラブルのもとになります。
食事会をするときには、事前にハラール(食べることが許されている)の食材のみが使用されているかどうかを確認し、本人に共有する必要があります。
また、日常生活においてスーパーで買い物をする際に、豚肉やアルコール由来の成分が含まれていないことを確認する方法についても、事前に教えておいてあげることが必要です。
なお、敬虔なイスラム教徒の方の中には、調理器具や食器についても、非イスラム教徒の方とは区別したいと考える方もいます。
社員寮で共同生活をして貰う場合には、こうしたこだわりについても事前に本人の希望を確認して、必要に応じて別途用意をしておく必要があります。
・事例②お祈りについて
キリスト教や仏教等の方については、平日日中の決められた時間にお祈りをする習慣はありませんが、イスラム教徒の方は、1日に5回お祈りをする習慣があります。
(厳密には、スンニ派は1日5回、シーア派は3回)
お祈りの時間は、太陽の位置によって決まるため、時間は毎日異なります。
概要としては以下になります。
・早朝(ファジュル):夜が白み始めてから日の出前まで
・正午(ズフル):太陽が頭の上にきてから午後のお祈りまで
・午後(アスル):物の影が本体と同じ長さになった時から日没まで
・日没後(マグリブ):日没直後から就寝前のお祈りまで
・就寝前(ジュムア):日没後の残照が完全に消えてから早朝のお祈りまで
・お祈りについてのよくあるトラブルと解決方法
お祈り時間自体は10分もかからないので、仕事中に少しだけ休憩時間をもらってお祈りをしている方もいます。
また、仕事内容によってはどうしてもお祈りのために時間を作れないケースもあるため、数回分のお祈りを一回にまとめて、昼休みの時間に実施するという形で折り合いをつける方もいます。
雇入れの際には、仕事のスケジュールとお祈りのスケジュールをどう折り合いをつけるか、事前に想定しておく必要があります。
【ケーススタディ:休暇について】
日本人の長期休暇といえばゴールデンウィーク、お盆、年末年始が挙げられます。
長期休暇を利用して実家に帰ったり海外旅行をする方も多いと思います。
外国人の方の場合には、祖国に帰省する際には2週間以上を希望することが多くなります。
人によっては2か月以上の希望を出す方もいます。
入社前に帰省の予定を確認したり、社内の規定をしっかりと共有したりすることが重要です。
・休暇の希望が多い時期について
国や宗教によって休暇の希望が多い時期はばらつきがあります。
ゴールデンウィークやお盆という習慣は日本以外ではみられないため、カレンダー通りの休暇設定であれば、基本的には年末年始に帰省をする方が多いです。
以下に、海外における休暇時期の事例をまとめます。
1. 旧正月(中国・台湾・ベトナム等)
1月下旬~2月中旬中国では「春節」と呼ばれ、一年でもっとも盛大に祝われます。
新暦の正月よりも重要視され、一週間近い長期休暇がある企業も多いです。
中国とほぼ同じ暦を使用してきた北朝鮮や韓国、ベトナムなども、中国の春節と同じ日を「旧正月」として祝っています。
2. ラマダン・レバダン(イスラム圏)4月~5月
イスラム教徒が1カ月間にわたって食を断つものです。
ラマダン明けには集まって食事をとる為、それに合わせて帰省を希望する方も多いでしょう。
3. 清明節(中国)4月
家族で先祖の墓参りに行くイベントです。
中国の四大伝統的な祝日のうちの一つです。
中華系やイスラム圏の方々の場合、上記の時期に休暇を希望する場合もあります。
その他、インド出身の方は親族の結婚式には必ず出席される等、出身国の文化によって帰国したいタイミングがそれぞれ存在する可能性がありますので、雇入れの際には確認をする必要があります。
・休暇についてのよくあるトラブルと解決方法
同じ国籍の方が複数人働いていると全員が同じ時期に帰省を希望する場合があります。
休みの時期が被ってしまうと、業務にも支障がでる恐れがあります。
そのような場合には外国人の方に帰省の時期をずらしてもらうしかありません。
特に、特定技能の場合は帰省のための休暇を付与しなくてはならないため、外国人の方としても、休暇取得は当然の権利として申請をされます。
あらかじめ帰省可能な時期と人数を定めて、業務に影響が出ないようにしていくのが大切です。
また休暇のタイミングを早めに調整をしておくと、海外にいる家族も予定が立てやすいのでトラブルに繋がりにくいでしょう。
外国人で帰省をする方の中には、周りに迷惑がかからないように転職が決まったタイミングで帰省する方もいます。
【ケーススタディ:給与(契約)の話】
給与に関するよくあるトラブルとしては、条件提示の認識の違いがあります。
その他、年末調整の際の注意点なども以下にまとめます。
・給与条件の提示と手続き上の注意点について
給与条件の認識の齟齬からトラブルになるケースは多々あります。
固定残業時間についての理解が不足している、土曜日が出勤日で割増賃金にならないことが理解されていない、等、採用時の条件の認識がずれてしまっていることで後々不満が出てくるケースがあります。
傾向として、外国人の方は日本人以上に労働条件にシビアですので、採用時に丁寧に説明をするようにしてください。
また、母国の家族に仕送りをしている場合には、年末調整で扶養控除を申請することで税金の還付が受けられる場合があります。
申請時に、送金していることを証明する書類と、家族証明書が必要ですので、該当する方がいる場合には、周知を行う必要があります。
【おわりに】
文化・風習の違いから生じるよくあるトラブルと対策についてまとめてきました。
前述の通り、「宗教的・文化的なこれまでの慣習に対してどれだけこだわりがあるか」については人それぞれであり、「郷に入っては郷に従え」という考えを持った方もいます。
それぞれの方が譲れないポイントがどこにあるかをよく理解し、日本で生活する上で、また、会社で活躍する上で必要な習慣と折り合いをつけるサポートをしてあげてください。