はじめに
外国人社員の労務管理では、外国人社員が母国へ一時帰国について考えておくことが必要です。一時帰国においては労働基準法に基き、有給休暇を活用した対応が義務付けられています。
本記事では、一時帰国したい外国人社員への対応について労働基準法をもとに解説いたします。
外国人社員も労働基準法の対象となる(労働基準法3条)
日本で就労する外国人が、適切な賃金の支払いや労働時間、休暇、その他の労働条件で雇用契約を結ぶために、労働基準法が活用されています。
外国人社員の雇用においては一般的に、雇用主は労働基準法にそって外国人社員と雇用契約を結び、出入国在留管理局へ書類が提出され、審査を通して就労できる在留資格が外国人に認定される流れとなっています。
したがって、雇用契約は労働基準法と入管法に定められた条件を満たすことが必要であり、外国人社員は、国籍に関わらず法律に守られて日本で働き暮らせるような仕組みになっています。
第3条:使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱をしてはならない。
労働基準法における休暇とは?
外国人社員が休暇を取得する際は、労働基準法の法定休暇に定められた条件で会社に申請するようになります。
法定休暇(労働基準法に定められた休暇)には、年次有給休暇/産前産後休暇/生理休暇/介護休暇/育児休暇/子どもの看護休暇/があります。
年次有給休暇、産前産後休暇、生理休暇は、労働基準法で定められています。
介護休暇、育児休暇、子供の看護休暇は、育児介護休業法に定められています。
外国人が一時帰国する際は、労働基準法に基づく年次有給休暇の取得が必要です。
法定休暇以外の特別休暇(慶弔休暇、夏季休暇、リフレッシュ休暇など)は会社の任意で設けられる休暇です。夏季休暇を有給休暇扱いにする会社もありますが、基本的には夏季休暇は会社の任意で、有給休暇は労働基準法に基づく休暇であるため、別々に消化されることが通常です。
法定休暇
年次有給休暇(労働基準法39条)
産前産後休暇(労働基準法65条)
生理休暇(労働基準法68条)
介護休暇
育児休暇
子どもの看護休暇
年次有給休暇とは?(労働基準法39条)
外国人が一時帰国する際は、年次有給休暇を取得して休暇を取ることになります。
年次有給休暇とは、雇用から6ヶ月以上継続して勤務し、その期間に8割以上出勤している社員に10日間与えられる休暇です。
2019年4月より、働き方改革に伴い労働基準法が改正され、年次有給休暇の取得が義務化されるようになっています。
年次有給休暇は、正社員以外にもパートタイマーやアルバイト職員にも適用され、外国人社員に対しても同様に対象となります。
なお、年次有給休暇においては、休暇中の給与支払義務があります。
第39条 使用者は、その雇入れの日から起算して6ヵ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
年次有給休暇の日数
年次有給休暇の日数は、法律で定められた10日間の有給休暇と、勤続年数に応じて付与日数が増える仕組みになっています。
勤務開始6か月後は10日間/勤務開始1年6か月後は11日間/勤務開始2年6か月後は12日間/勤務開始3年6か月後は14日間/…と、年次有給休暇の付与日数は増えていきます。
外国人社員が一時帰国では、年次有給休暇の条件に合わせた10日間、または、有給休暇が消化済みの場合には、無給休暇で帰国するための配慮が必要となります。
年次有給休暇中の賃金は?(労働基準法第39条第9項)
年次有給休暇中の賃金は、労働基準法に基づいて3つの方式から支払います。
外国人社員が一時帰国で年次有給休暇を活用する場合には、休暇中の賃金支払い条件について、しっかりわかりやすい説明をしておくことが必要です。
年次有給休暇中の賃金においては。日本人社員との間でもトラブルとなるケースが発生しやすくなっているため、特に日本語や日本の仕組みに慣れていない外国人社員には、適切な対応が必要です。
1通常の賃金で支払う
一般的な支払い方式で、有給休暇中の賃金は通常の賃金と同額で支払います。
2平均賃金で支払う
以下の2パターンを計算して金額が大きい方を選らんで支払います。
- 直近3ヶ月の賃金合計を休日を含んだ日数で割る
- 直近3ヶ月の賃金合計を労働日数で割った金額の6割
3健康保険料の標準報酬月額で支払う
健康保険料に加入している会社では、社員の標準報酬月額から計算ができます。この方式の場合、通常の賃金や平均賃金で支払うより、有給休暇中の賃金が少なくなる可能性があるため、雇用側と社員との間に労使協定を締結する必要があります。
労働基準法違反に対する罰則(労働基準法39条/労働基準法119条)
労働基準法違反については、労働基準監督署の管轄で違反行為に対して指導され、悪質なケースには罰則も科せられます。
年次有給休暇では、外国人社員も日本人と同様に6ヵ月以上勤務した場合は休暇を取ることができます。もし、条件を満たす外国人からの有給休暇の申し出を受け入れなかった場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑となります。
罰則に発展する前にトラブル防止策として、外国人社員の一時帰国の申し出のタイミングや会社の繁忙期について、外国人社員と雇用側の間で事前に話し合っておくことが必要です。
一時帰国の帰省シーズンについて知っておく
外国人社員の労務管理で注意する点は、日本の年中行事や祝日とは異なる国ごとの習慣文化や行事について知っておくことです。
外国人社員に突然、一時帰国を申し出されても対応できるように、雇用している外国人の母国の事情について理解し、雇用契約に休暇の条件を記しておくことが必要です。
日本人が一般的に休暇を取りたい5月、8月、12月、1月に対して、外国人の休暇時期を把握し、勤怠管理をすることが必要です。
また、現在、コロナ禍の水際対策による移動制限が、随時更新されていますので、一時帰国を希望する外国人社員がいる場合には、更新情報を確認することが必要となります。
主な外国人の帰省シーズン
中国、香港、台湾、韓国、ベトナム、シンガポールなどのアジア諸国とインドネシア(華人系)は、1月下旬~2月中旬頃に旧正月を迎えます。
日本人社員の休暇となる正月(1月)が終わると、旧正月を祝う習慣の国では帰省シーズンになりますので、勤怠管理では帰国する外国人に配慮してスケジュールを立てると良いでしょう。
イスラム教徒の多いインドネシアでは、ラマダンの時期に帰省を希望する人もいるでしょう。ラマダンは日の出から日没にかけて断食をするイスラム教徒の習慣です。
ラマダンの時期は、だいたい4月から6月にかけ1ヶ月間に行われます。イスラム暦にそって毎年若干、日付は変動します。
まとめ
外国人社員が一時帰国を希望した場合には、労働基準法に基づいた年次有給休暇を活用して、出国ができるための配慮が必要です。
外国人社員に年次有給休暇を与える場合には、休暇についての条件や賃金支払い、休暇日数などを事前にわかりやすく説明しておくことが大切です。また、一時帰国のタイミングが、雇用側と外国人社員の要望にあうように雇用契約の上で取り決めをしておくと良いでしょう。
外国人社員が健康的に働くことができるように、適切な休暇を与えてよりよい職場環境を作っていきましょう。