採用における最大のハードルは言語ではなく体制作り
外国人材の採用をためらう理由として、「言語の壁」はよく挙げられる問題です。
しかし、問題の本質は言語ではありません。
多くの企業では、日本人に対しても新人教育の仕組みが整っていないため、外国人にも「教えられる体制がない」というのが本音です。
・建設現場の担当者から
建設業に限らず、業務で教える内容は日本人でも外国人でも同じです。
たとえば、どの業界でも最初に必要なのは「作業手順」「安全ルール」などの基本的な知識になると思います。
そのため、どう伝えるかという方法に問題があり、上手く機能していない「体制作り」が最大のハードルです。
「体制がない」という言葉の裏に隠れた諦めの感情
簡潔にいえば、外国人材の受け入れ体制を整えるのは、そこまで難しいものではありません。
たとえば、初めて外国人材を受け入れたいとなった場合でも、支援する企業や団体に相談すれば、対応策が明確になるため、大きな不安を抱えずに準備を進めることが可能です。
そのため、「体制がない」という言葉で片づけてしまうのではなく、何処を改善できるのかを明確にする必要があります。
・建設現場の担当者から
建設現場でも「日本人に同様の教育を行い、それまで問題がなかった」のは、日本人であれば言葉や文化の共通理解に頼って、曖昧な指示や口頭説明だけでも何とか成り立っていたためだといえるでしょう。
しかし、外国人材に同じように接した場合、「何を」「どの順番で」「どう伝えるか」が明確でないと伝わりません。
結果として、教える側も諦め「やっぱり外国人には無理だった」と結論づけてしまう流れとなります。
つまり、「外国人の受け入れ体制がないという状態は、外国人の理解力の問題ではなく、社内に教育の基準や仕組みがないことが露呈した」だけです。
実際には、日本人の若手や未経験者も同じように明文化された教育手順があれば、指導の質やスピードは大きく向上します。
言語が通じないときに必要なのは、「諦めではなく工夫」
外国人材とのコミュニケーションに不安を感じ、「言葉が通じないから無理だ」と採用を諦めてしまう例は少なくありません。
しかし、言葉が完全に通じなくても、現場での指示や教育は成立します。
・建設現場の担当者から
建設現場では、視覚的・身体的に伝えることも多いといえます。
また、言葉に頼らない指導方法が効果的を発揮することも少なくありません。
実際、外国人材だけでなく、日本人同士でも言葉による やり取りでは齟齬やズレが起きるケースもあります。
ここで、重要なのは「どうしたら伝わるかを一緒に考える姿勢」です。
諦めではなく、方法を選ぶことが採用と定着の分かれ道になります。たとえば、以下のような項目の中から2つほど実施すれば、外国人採用に対するハードルは各段に低くなるでしょう。
- 写真付き・図解付きのマニュアル
- 翻訳アプリやタブレット端末の活用
- 簡単な日本語+身振りで伝える現場型OJT
- 最初だけ通訳を頼み、徐々に本人が慣れていく仕組み
外国人材の採用と採用後で企業に必要な対応
ここでは、外国人材の採用と採用後で企業に必要な対応について解説していきます。
・建設現場の担当者から
採用は「業務の目的に対してどのような人材が必要か」という点を考えなければなりません。
そのうえで、採用後は「どれだけコミュニケーションを円滑に取り、作業を効率化できるか」を観点におく必要があります。
また、採用後は「教える側と受け取る側の相互理解」が業務効率に直結します。
言語に不安がある場合も丁寧な説明や図解マニュアル、通訳アプリの活用などで十分にカバーできるでしょう。
建設現場では、職長が仕事以外でもコミュニケーションを取ることで、スムーズなコミュニケーションができる体制作りを行っていたケースもありました。
簡単にいえば、「伝える努力を惜しまない姿勢や体制」が現場全体の生産性向上と人材不足の解消につながります。
採用から育成まで一貫して、「何を任せたいか」「どう支えるか」が明確になっていれば、外国人材は大きな戦力として現場を支えてくれる存在になります。
採用の段階で企業に必要な対応
外国人材の採用において、最初に重要なのは「採用する前の準備」です。
制度や文化の違いに戸惑う前に、以下のような基本的な確認と整備を行うだけでも、採用への心理的ハードルは大きく下がります。
対応項目 | 内容 | 事例 |
在留資格の確認 | 業務内容が「特定技能1号」や「育成就労」などの対象かを事前に確認 | 内装仕上げ会社A社では、当初採用を予定していた内装補助作業(材料の運搬や片付け、単純な手元作業)が特定技能1号の対象職種に該当しないと判明した。そのため、採用計画を大きく見直し、特定技能1号の範囲となる内装仕上げで改めて募集を行った |
求人情報の整理 | 必要な日本語レベル、作業内容、勤務条件を明記 | B社は「日本語で日常会話ができる人」と記載し、適正な応募を獲得 |
外部支援の活用 | 登録支援機関や紹介会社と連携し、制度面を補完 | C社は初めての採用を人材紹介企業に相談し、在留資格申請もスムーズに完了 |
採用後に必要な対応
採用後は、受け入れから教育、定着までの流れをどれだけスムーズにできるかが鍵です。
特別な仕組みが必要なわけではなく、既存の体制を少し工夫するだけで、無理なく対応できます。
対応項目 | 内容 | 事例 |
教育の見える化 | 写真・図解付きマニュアル、動画マニュアルを活用 | 建設会社D社は動画で足場組立の手順を説明し、定着率が上昇 |
OJT+メンター制度 | 配属先での実地教育+相談相手を用意 | E社では先輩社員がメンターとなり、言語面も含めてフォロー |
キャリア支援 | 特定技能2号への移行支援、試験対策 | F社では勤務2年目で2号試験の準備を支援し、定着とリーダー育成につながった |
外国人材の採用は「企業の体制作り」だけではなく「双方の歩み寄り」で定着する
建設業界における外国人材の受け入れでは、多くの場面で「教える体制がない」という理由で企業側が採用に踏み切れないケースも多いといえるでしょう。
確かに、日本人を前提とした属人的な指導スタイルでは、言語や文化が異なる人材に対して十分に対応できない現実があります。
しかし、「体制がない」ことを理由に採用そのものを諦めてしまうのは、本質的な解決にはつながりません。
一方で、すべてを企業側の課題として論じるのも適切ではないといえます。
外国人材にとっても、「教わる側としての準備」や「現場文化への順応」という努力は必要不可欠です。
実際、多くの現場では、簡単な日本語を覚えようとする姿勢や作業手順を反復して覚える姿勢によって、短期間で周囲の信頼を得て定着するケースもあります。
ただし、重要なのは、教える側の「伝え方の工夫」と、教わる側の「受け取り方の工夫」が2つとも機能することです。
たとえば、企業側が図解マニュアルや翻訳ツール、通訳支援などを用意しつつ、外国人材側も日本語スキルやルール理解の習得に努めることで、相互理解が可能となります。
加えて、企業がすべての工程を完璧に整備してから採用する必要はありません。段階的に体制を整えつつ、外部支援機関のサポートを活用し、外国人材側の適応を引き出す設計も十分に現実的です。
実際、先輩社員がメンターとなって日々のやり取りを支援したり、初期だけ通訳を活用したりするだけでも、現場はスムーズに回ります。
まとめると、「制度や言語は違えど、現場での信頼関係の構築には、企業の体制整備と外国人側の主体性の両方が必要」です。
まとめ
建設業における外国人材の採用は、「人手不足の解消」という表面的な課題以上に、現場の体制づくりやマインドの転換が求められます。
多くの企業では、「言葉が通じない」「教える体制がない」と悩んでいますが、実際には日本人と同様の知識を伝える準備、伝える体制があればカバーできます。
必要なのは、大きな制度変更や投資ではなく、「誰にでもわかる形で教えられる仕組みを整えること」です。
そして、「どうしたら伝わるか」を一緒に考える姿勢だといえるでしょう。LTBでは、玉掛けやクレーンや大型免許を持ってダンンプを運転している永住者・定住者・日本人の配偶者、帰化した外国人が毎月100名ほどお仕事を探すために登録をしてくれている状況です。
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