外国人採用の面接での「志望動機」。答えが返ってこない理由と、代わりに確かめたい3つのこと。彼らは真剣に自社に入りたいと思っているのか。

外国人採用の面接での「志望動機」。答えが返ってこない理由と、代わりに確かめたい3つのこと。彼らは真剣に自社に入りたいと思っているのか。

日本の採用で「志望動機」が重視されてきた理由

日本の採用、とくに新卒採用では、志望動機と企業研究はほぼ必須の準備とされてきました。経団連の「2018年度 新卒採用に関するアンケート調査」でも、選考で重視した点は「コミュニケーション能力」が16年連続の1位、「主体性」が10年連続の2位です。

背景には、職務を決めずに新卒を一括採用し、長期雇用の中で育てる日本型の雇用慣行があります。労働政策研究者の濱口桂一郎氏は、これを「メンバーシップ型」と呼びました。入社後にどの仕事をするかが決まっていないため、企業は「何ができるか」よりも「なぜ当社なのか」「長く一緒にやれるか」で相性を確かめてきたのです。

「終身雇用」という言葉も、戦後から高度成長期に大企業の慣行として定着したとされます。会社への帰属ややりがいを語ることは、この仕組みが育てた「作法」です。

外国人採用の面接では、志望動機が「返ってこない」

外国人の採用支援の現場で面接に立ち会っていると、「なぜ当社を選んだのですか?」という質問で、空気が止まる場面を何度も見てきました。

  • なぜこの職種を選んだのかの回答がない
  • なぜうちを選んだのか、志望理由を聞いたが、答えが返ってこない
  • 職歴からみても関連性が薄く、選択の背景が見えずらい

外国人が働く理由は「役務の対価」。それは自然なこと

私が出会ってきた外国人の求職者の多くは、働く理由を「家族に仕送りしたい」「生活を安定させたい」とはっきり話します。それを「志望動機が弱い」と受け取るのは、もったいないと感じています。

心理学者マズローは1943年の論文で、人の欲求を「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」の5つに整理しました。ただしマズロー自身、この順番は思われているほど固定的ではない、とも書いています。

LTBではこの5段階の欲求で整理した時に、私たち日本人が新卒で行ってきた「就活」と違う見え方が見えると考えています。

生活と安全の土台を固めるために、国を離れて働く。これは、とても健全な動機です。「やりがい」や「会社への帰属」を面接で語れるのは、土台がある程度満たされ、しかもメンバーシップ型の雇用慣行の中で育った人に多い、LTBではそう考えています。

「職業を自分で選ぶ」経験には、国による差もある

南アジアには、歴史的に、生まれと職業が結びついてきた地域があります。これは個人や宗教の優劣の話ではなく、制度と歴史の違いの話です。また、その国の出身者すべてに当てはまるわけでもありません。

  • ネパール:1854年の法典「ムルキ・アイン」が、カーストの序列を法に定めました。カミ(鍛冶)、ダマイ(仕立て)、サルキ(皮革)など、職業と結びついた集団が最も低い位置に置かれました。1963年の法改正で不可触民制は法の上で廃止され、2011年にはカースト差別と不可触民制を処罰する法律もできています。それでもILOの2005年の調査では、ダリット(被差別カースト)の回答者の約37%が「自分は職業を変えられない」と答え、「どんな職業にも変えられる」と答えた人は約13%でした。
  • インド:1950年に施行された憲法の17条で、不可触民制は廃止されています。一方、米国のピュー・リサーチ・センターの2021年の調査では、宗教にかかわらず98%の人が何らかのカーストに属していると答え、キリスト教徒の33%が「指定カースト」だと答えました。カーストに似た区分は、ヒンドゥー教の外にも残っています。

「この仕事を選んだ理由」を自分の言葉で説明する機会そのものが、少なかった人もいる。その前提で面接に臨むと、見え方が変わります。決して彼らは、やる気がないのではなく、志望動機の語り方と、御社を選んだ理由の捉え方や伝え方がわからないと言った方がより正確な整理かと考えています。

また、この「志望動機」が強烈だからといって、「長く定着する理由」になるか、「企業に対して行ってのロイヤルティを示すか」ということと対比して考える必要があるように考えます。

人間の心は、日々動きます。今日、熱く志望動機を目の前で語れても、もしかしたら、御社に入って1年後には意欲が下がっていることもあるかもしれません。

志望動機の代わりに、面接で確かめたい3つのこと

  1. 働く理由を、正直に聞く
    「日本で働いて、何を実現したいですか」「毎月いくら必要ですか」。給与や生活の安定という答えを、歓迎して受け止めます。
  2. 続けられる条件を確かめる
    勤務時間、休日、住まい、通勤、家族の事情、在留期限など。在留資格で働けるかどうかは個別の判断になるため、専門家に確認してください。
  3. 仕事に必要な日本語を、仕事の場面で確かめる
    「お店の人に『この商品、明日から5個にして』と言われたら、どうしますか」のように、実際の場面で聞きます。

まとめ

志望動機は、日本の雇用慣行が育てた質問とLTBではとらえています。外国人採用の面接では、必ず下強い志望動機が長く働くこととイコールではないと、10年以上私たちが外国人ワーカーと向き合ってきて感じることであり、むしろ、働く理由を率直に聞き、続けられる条件と仕事の日本語を確かめるほうが、長期の定着につながると考えています。

代表の鈴木が、このテーマへの思いをnoteにも書いています。https://note.com/livetobusiness/n/n37f5be97211d

LTBは、外国人採用の面接の質問づくりや、企業と求職者の間の確認もお手伝いしています。お気軽にご相談ください。

お問い合わせはこちら


出典

  1. 一般社団法人 日本経済団体連合会「2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果」(2018年11月22日)https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/110.pdf
  2. 濱口桂一郎『新しい労働社会―雇用システムの再構築へ』岩波新書、2009年(メンバーシップ型の概念)。参考:日本労働研究雑誌 2022年特別号「ジョブ型雇用は日本の雇用・労使関係と親和的か?」https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/special/pdf/001-003.pdf
  3. 日本大百科全書(ニッポニカ)「終身雇用」(コトバンク)https://kotobank.jp/word/終身雇用
  4. Maslow, A. H. (1943). A Theory of Human Motivation. Psychological Review, 50(4), 370–396. https://doi.org/10.1037/h0054346 (全文:https://psychclassics.yorku.ca/Maslow/motivation.htm )
  5. World Bank and DFID, “Unequal Citizens: Gender, Caste and Ethnic Exclusion in Nepal – Executive Summary” (2006) https://documents1.worldbank.org/curated/en/745031468324021366/text/379660v20WP0Un00Box0361508B0PUBLIC0.txt
  6. International Labour Office, “Dalits and Labour in Nepal: Discrimination and Forced Labour” (Kathmandu, 2005), Table 3.6, 3.3.2.7 Occupational mobility. https://www.ilo.org/media/318731/download
  7. UN News “Nepal: UN welcomes new law on caste-based discrimination” (2011年5月25日) https://news.un.org/en/node/376232
  8. Constitution of India, Article 17 (Abolition of Untouchability) https://www.constitutionofindia.net/articles/article-17-abolition-of-untouchability/
  9. Pew Research Center, “Measuring caste in India” (2021年6月29日) https://www.pewresearch.org/decoded/2021/06/29/measuring-caste-in-india/ / “Religion in India: Tolerance and Segregation – Attitudes about caste” https://www.pewresearch.org/religion/2021/06/29/attitudes-about-caste/
  10. 一次情報:LTBによる採用担当者へのヒアリング(2018~2026年の間の複数回、電話。企業名・個人名は匿名化)