「大根」は読めても「檸檬」は読めない ── 業務日本語をどう捉えるか

「大根」は読めても「檸檬」は読めない ── 業務日本語をどう捉えるか

なぜ「檸檬」と「大根」なのか

「檸檬(レモン)」という漢字を、何も見ずに書ける日本人は決して多くありません。読むことはできても、書くとなると手が止まる。一方で「大根」は誰もが書ける、ごく日常的な漢字です。この対比が、私たちが外国人材の日本語をどう捉えているかを端的に表しています。

私たちがこだわっているのは、業務で実際に使う言葉の漢字が外国人にとってどれだけ難しいか、そしてその難しさが必ずしも仕事上の必要性と一致していない、という点です。

私たちが意識している日本語の2つの分類

横断的な日本語とは、JLPT(日本語能力試験)やJFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)が測ろうとする、広く一般的な語彙・文法・漢字の知識です。試験の級が上がるほど、扱う語彙や漢字は難しくなっていきます。

深掘的な日本語とは、業務に直結する専門用語・業界用語です。特定技能や技能実習の評価試験で問われる現場の言葉も、ここに含まれます。横断的な知識の広さとは別の軸で、その職種で働くために必要となる語彙です。

事例:外食業界の用語

外食の現場では、漢字を伴う用語が日常的に使われます。従業員向けの食事を指す「賄い(まかない)」、味の基礎となる「出汁(だし)」、注文前に出す「御通し(おとおし)」、そして仕込みで扱う「牛蒡(ごぼう)」「南瓜(かぼちゃ)」「大根(だいこん)」など。漢字単体で見れば難易度は高い一方、現場では反復のなかで自然に習得されていきます。

事例:物流業界の用語

物流業界でも専門用語が使われます。荷物を集める「集荷(しゅうか)」、車両に荷を積む「積載(せきさい)」、貨物の積み下ろしを指す「荷役(にやく)」、拠点間を結ぶ「幹線(かんせん)」、玄関先に置く「置き配(おきはい)」、誤った宛先への「誤配(ごはい)」、配達先の「軒先(のきさき)」など。「荷役」を「にやく」と正しく読める日本人は多くなく、これらもまた一般的な読み書き能力とは別の知識体系です。

求められる日本語と、求められない日本語

ここから見えてくるのは、業界で一般的に使われる「大根」のような用語がわかれば、多くの業務は成立するということです。逆に、「檸檬」のような漢字――日本人でも何も見ずには書けない難しい漢字――は、現場の業務では求められていません。試験が測る日本語の難しさと、仕事で実際に必要な日本語は、必ずしも一致していないのです。

評価の物差しがないという課題

この構造ゆえに、正規の日本語教育を受けていない外国人に「日本語能力試験は何級ですか」と尋ねても、答えにくい場合が少なくありません。彼らは試験勉強ではなく、現場での経験を通じて業務日本語を身につけているためです。結果として彼らの実際の能力を測る物差しが見つかりにくく、適切に評価する手段がないというのが実態です。私たちは、横断的な試験の級では捉えきれない、現場で通用する日本語の力をどう可視化し評価するかに取り組んでいます。